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声が届く場所——NPO法人あいだ理事・奥野大地が語る、PODCASTと「貧困の再定義」
声が届く場所——NPO法人あいだ理事・奥野大地が語る、PODCASTと「貧困の再定義」
「声の向こうにいる人のこと。」:NPO法人あいだ 奥野 大地

NPO法人あいだの理事であり臨床心理士の奥野大地さん。彼がパーソナリティを務めるPODCAST「あいだラジオ by NPO法人あいだ〜わけ合えばあまる〜」は、3年以上にわたり100本を超えるエピソードを重ねてきた。文字では伝えきれないテーマを、声に乗せて発信する意味とは何か。今回のインタビューでは、情報発信の原点から、番組がもたらした思わぬ変化、そしてNPOと個人の両面で動き出した新しい挑戦まで、奥野さんが率直に語っている。

文字の重さを越えて、声が届くまで

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NPO法人あいだの活動を社会に伝えようとするとき、奥野さんはいつも同じ壁にぶつかっていた。伝えたいことはある。しかし、それを文字にしようとすると、どうしても重くなってしまう。

「情報発信は必要だとわかっていたのですが、紙や文字で書き始めると面白くなくなってしまう。トピックが重すぎて、真面目に書けば書くほど読む人は限られてしまう。そう感じながら、なかなか筆が進まなかった」

NPO法人あいだが扱うテーマ——貧困、子どもの居場所、社会的孤立——は、短い文字情報では伝わりにくく、かといって長文を書ききる余力もない。そんな行き詰まりの中で、音声配信という選択肢が浮かんだ。「ネタはたくさんあるし、嬉しいです」という感覚で始まったと奥野さんは振り返る。書くことの苦労から解放され、話すことの自然さに乗っかる形で、「あいだラジオ」は産声を上げた。

PODCASTというメディアが持つ「ながら聴き」の特性は、Lifebloom.funでも番組制作を通じて実感してきたことだ。声は、画面を見ていなくても届く。その特性が、重いテーマをかえって身近にする力を持っている。

3年、100本超——相棒がいたから続いた

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番組がスタートして3年以上が経ち、エピソードは100本を超えた。この継続を支えてきた最大の要因として、奥野さんが真っ先に挙げるのは、パーソナリティを共に務めるNPO法人あいだの理事の寺田絢香さんと、Lifebloom.funのトーマス・J・トーマスの存在だ。

「2人が出てくれていなかったら、こうはなっていなかったと思います。3ヶ月ほどで挫折していたでしょう」

NPO法人あいだの内情について理解しており、シングルマザーという立場で番組に関わってくれる絢香さんと、他の番組では見られないトーマスの問いかけや切り返しが、番組に独特のリズムをもたらしている。奥野さんが語り、トーマスが受け、絢香さんが和ませる——そのやり取りの中で、一人では引き出せなかった言葉が生まれてきたという。NPOの活動という、ともすれば重くなりがちなテーマが、三人の掛け合いによって親しみやすく、かつ本質的なものとして届く。この化学反応こそが、「あいだラジオ」の核心にある。

「貧困」を声で語ったとき、言葉が変わった

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100本を超えるエピソードの中で、奥野さんが特に印象に残っていると語るのが、NPO法人あいだの活動の根幹にある「貧困」の定義について語った回だ。

「”貧困とは”について語った回は、自分でも面白かった。このテーマをちゃんと言葉にするのは難しいのですが、ポッドキャストでは比較的言いやすかった」

経済的な困窮だけを指すのではなく、人と人と繋がりが断絶することこそが貧困の本質だという考え方。これは文字で書けば誤解を招きやすく、論文的な説明が必要になる。しかし声で、対話の中で語られることで、その意味のグラデーションがリスナーに自然に伝わる。奥野さんが「言いやすかった」と感じたのは、音声というメディアが持つそういった特性ゆえだろう。

臨床心理士としての専門的な視点から心の健康や人間関係について語るエピソードも、再生数が好調だという。専門知識を堅苦しくなく、しかし本質を外さずに届けること——「あいだラジオ」はそのバランスを、声の力で実現している。番組の詳細は、あいだラジオ by NPO法人あいだ〜わけ合えばあまる〜の番組ページで確認できる。

喋ることで、思考が整っていった

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3年以上にわたって番組を続けてきた中で、奥野さん自身にも変化が生まれた。それは、自分の「喋り」が整理されていったという感覚だ。

「PODCASTを続けていると、喋りが整理されていきました。自分が求めているお客さんはこうですと、スパッと言えるようになってくる。言うべき情報と、面白さを加える情報のバランスも意識できるようになって、発信が洗練されたと感じています」

話すという行為を繰り返すことで、自分が何を伝えたいのかが明確になっていく。これは、ポッドキャストが単なる情報発信ツールではなく、話し手自身の思考を鍛える場でもあることを示している。

さらに奥野さんは、この経験がNPO法人あいだのスタッフ教育にも応用できると語る。代表の考え方を音声で届けることで、組織全体に理念が浸透していく——特定の企業がPODCASTを社内教育に活用している事例を引き合いに出しながら、「あいだラジオ」がそうした役割を担う可能性にも言及した。「スタッフが増えていったら、あいだラジオが社内教育ツールとして使えそうですね」という言葉には、番組の可能性をまだ広げようとしている奥野さんの姿勢が表れている。

「聴いてる」とは言わずに、内容を口にする人たち

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PODCASTのリスナーとの関係は、SNSのフォロワーとも、メルマガ読者とも少し違う。奥野さんはその独特の距離感を、こんなエピソードで語ってくれた。

「番組で話した内容を、聞いているとは言わずに口にする人がいるのです。『こんなことを言ってましたよね』と。お前、言えよ、みたいになりますよね」

直接「聴いています」と言わなくても、番組の言葉が日常の会話の中に自然に溶け込んでいる。それは、リスナーが情報を受け取るだけでなく、自分の言葉として消化していることの証だ。PODCASTが持つ「親密性」——耳元で語りかけるような感覚が、こうした静かな影響力を生み出している。

奥野さんは、第134回で「親密性」について語ったエピソードに触れながら、「ちゃんと宣伝しなきゃいけないな」と苦笑いしていた。番組の存在をもっと積極的に周囲に伝えることへの反省も、正直に口にしていた。

「言っちゃったからやらなきゃ」という使い方

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「あいだラジオ」は、奥野さんにとって情報発信の場であるだけでなく、自分自身を動かすための「旗」としても機能してきた。

「番組の中で宣言することで、言っちゃったからやらなきゃという状況に自分を追い込む手法があるでしょう。それを使っています」

公言することで退路を断ち、行動に移す。PODCASTという公開の場を、自己コミットメントのツールとして活用しているのだ。

また、名刺交換後の挨拶メールにPODCASTのリンクを添えることで、相手に奥野さんの人柄や活動を深く知ってもらうきっかけにもなっている。「名刺交換すると秘書さんが名刺の写真をメールで送ってくれるのですが、その挨拶メールの中にPODCASTもやってますよと書いてあるので、そこから一度二度聴いてくれる人はいたはずです」と、具体的な活用の場面も語ってくれた。

さらに、番組の音声をメルマガとして展開したり、文字起こしをAIで要約して記事化したりと、コンテンツの多角的な活用も進んでいる。一度収録した音声が複数のメディアで生き続ける——PODCASTが持つ「資産性」を、奥野さんは実践的に活かそうとしている。

新代表として、認定NPOへの道を歩む

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NPO法人あいだは、奥野大地さんが代表に就任したことで、新たなフェーズに入った。その一つの目標が、「認定NPO法人」の取得だ。

前代表の時代には、すでに確立された社会的信用があったため、認定取得の必要性は低く、むしろ手続きのコストがデメリットと判断されていた。しかし状況は変わった。

「前代表のうちは社会的信用がすでにあったので、認定になる必要は全くなかった。でも私はまだ、お前誰やねんという話ですから」

認定NPO法人になるためには、寄付金の要件を満たすだけでなく、書類の整備や定款に沿った活動の記録など、地道な手続きが求められる。「この辺はね、良くないね」と自ら認めながらも、NPOとしての信頼性を高めるために必要なステップとして向き合おうとしている。

また、児童向けシェルター「すだちの木」のような施設をもう1〜2箇所増設したいという意向も語ってくれた。記録のオンライン化や、複数施設をつないだ朝の合同申し送りミーティングの導入など、多店舗展開を効率的に行うための仕組みづくりにも着手している。「前まではお金的なメリットしかないと思っていたから、それだけのためにやるのはどうかと思っていた。でも手間をかけずにできるのであれば、やった方がいい」と、考え方の変化も率直に話してくれた。

レッドオーシャンを避けて、海を渡る

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NPO法人あいだの活動と並行して、奥野さん個人としても新たな挑戦が動き出している。「株式会社 こころを耕す」の設立と、海外在住者向けのオンラインカウンセリング事業だ。

海外に住む日本語話者をターゲットに、専門性の高いカウンセリングを提供していく。「海外在住者に特化することで、異国の地で活躍する方の心に寄り添いながら、地理的な制約をマーケティング的な強みに変える」と奥野さんは語る。

この構想は2年以上前から温めていたものの、多忙を理由に蓋をしてきたという。「あまりにもやりたさすぎて」という言葉に、長年の思いが滲む。個人事業から法人化するタイミングで、ついに動き出すことにした。個人事業のままでは、万が一の際に通帳が凍結されて給与が払えなくなるリスクがある——そうした現実的な課題も、法人化を決断した理由の一つだ。「そんなことに気づかずに12年もやってしまった」と苦笑いしながらも、次のステップへの意欲は確かなものだった。

定款に書いた「情報発信」、PODCASTが救った

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NPO法人あいだの定款には、「今困っている若者がどうであるか」といった情報発信を行う事業が明記されている。これはNPOとして社会に果たすべき義務であり、当初はメルマガなどの文字媒体を想定していた。

「定款に情報発信をする事業が書いてあって、それをやる必要があるのです。メルマガを想定して定款に入れたのですが、いざ蓋を開けてみると、書く側が大変すぎて」

ライターに依頼してもニュアンスが違ってしまう。自分で書こうとすると筆が止まる。そんな行き詰まりを、PODCATが解決した。話すことは、奥野さんにとって「気楽」なのだ。

「PODCASTの方が気楽。そこに尽きます」

義務として課された情報発信を、気楽に続けられる手段で果たす。このシンプルな一致が、「あいだラジオ」の継続を支えてきた根本にある。声の温度感をいかに残すか——Lifebloom.funが音声コンテンツの編集で大切にしている問いと、奥野さんのこの実感はどこか重なる。書き言葉では削ぎ落とされてしまう「話し手の息遣い」が、NPOの活動を広く知っても

タグで探せる番組へ——リスナーと育てる次のかたち

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Lifebloom.funへの期待として、奥野さんが最初に挙げたのは、エピソードへの「タグ付け機能」の導入だった。

「バックナンバーをリストするページで、タグで検索できるとありがたいのです。例えば『子育て』といったタグをエピソードにつけて検索できるようにしてもらえると、使いやすくなります」

取材を受けた際に「このタグで検索して何本か聞いてください」と案内できる——そんな使い方を想定しての要望だ。エピソードが100本を超えた今、過去の音声をどう届けるかは、番組の資産を活かす上でも重要な課題である。

もう一つ、奥野さんが言及したのがDiscordコミュニティの活用だ。リスナーがステッカーの到着を写真付きで投稿したり、番組の感想を共有したりする場として、Discordはすでに動き始めている。「そこに反応してもらえると嬉しい」という奥野さんの言葉には、リスナーとの距離を縮めたいという思いが込められている。

「あいだラジオが盛り上がること、リスナーたちが熱くなってくれること——それが最終的なゴールです」

Discordでのやり取りが活発になれば、それを見た他のユーザーが番組を聴き始めるきっかけにもなる。コミュニティの熱量が、番組の広がりを生む。奥野さんはその循環を、静かに、しかし確かに期待している。


NPO法人あいだは、平成30年に設立された埼玉県のNPO法人だ。児童向けのシェルターや子ども食堂など、主に子ども・若者へのサポートを提供している。奥野さんは、その活動の本質をこう語る。

「困っている人を助けることは、それぞれみんな頑張っています。当法人としては、助ける人を増やしましょう、という考え方です。助ける側が助ける側に回りやすいための方法をいつも考えて、面白おかしくやっています」

声で語ることで、重いテーマが少し軽くなる。対話の中で、言葉が本来の意味を取り戻す。奥野さんが3年以上かけて積み上げてきた「あいだラジオ」の時間は、そういう確信の積み重ねでもある。今回のインタビューで語られた奥野大地さんの言葉の続きは、ぜひ番組でご聴取いただけたら幸いだ。

NPO法人あいだ

NPO法人あいだ

NPO法人あいだは、「心は人と人とのあいだにある」を理念に掲げ、子どもや若者の自立と居場所づくりを支援する団体です。自立援助ホーム・シェルター「すだちの木」、中高生向けの学習支援フリースクール「てらこ」、移動式子ども食堂「あい♡だいな〜」などの活動を展開しています。支えを必要とする人々と地域をつなぎ、一人ひとりが安心して未来へ歩み出せる温かい関係性を育んでいます。

WEBサイト:https://npoaida.org/

「本音」で書く、その先に見えるもの——松三詠さんが語る本音ライティングと声の力
「本音」で書く、その先に見えるもの——松三詠さんが語る本音ライティングと声の力
「声の向こうにいる人のこと。」:松 三詠

ポッドキャストの平均視聴時間は30分を超えることも珍しくない。SNSのタイムラインを流れる数秒の動画とは、時間の密度がまるで違う。その長い時間をリスナーと共有するからこそ、表面を取り繕った言葉はすぐに薄さを露わにする。そう語るのは、ポッドキャスト「心の起業学」の配信者であり、著書『SNSフォロワー1000人以下でも濃いファンができる発信術 本音ライティング』の著者、松三詠さんだ。今回のインタビューでは、出版の裏側からポッドキャストが自分の発信を変えた経緯まで、じっくりと語ってもらった。

「思ったことを書くのでいい」という気づき

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出版から1年ほど経った今、読者からどんな声が届いているかを尋ねると、三詠さんは少し間を置いてから答えた。

「本音で書くという意味がわかった。『思ったことを書けばいいんだ』と気づく事ができた、という声が多いです」

SNSをビジネスや活動のために使っている人が主な読者層だという。売れようとして書くと「みんなと同じような投稿になってしまう」。かといって私生活をすべてさらけ出すタイプでもない。文章コンサルに「自己開示をしましょう」と言われても、それが苦手でどうにもならない。そういう人が手に取り、「こんなことでいいんだ」とハードルが下がったと言ってくれる、と。

もうひとつ、意外な感想として多く届くのが「癒された」という声だ。「ライティングの本だと思って読んだら、なぜか癒された。後半はライティングの本だけど、前半は自分発見の本ですよね」という反応が、本屋のジャンル分けを超えて届いているらしい。書店によってはウェブ構築やSEO関連の棚に並ぶこともあれば、SNSや文章のコーナーに置かれることもある。それでも「メンタルに効く本ですね」という感想が繰り返し届く。タイトルが示す以上の何かが、この本には込められているということかもしれない。

テクニックの手前にある問い

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「言語化」という言葉が定番化して久しい。ビジネス書でも自己啓発書でも、言語化は必須スキルとして語られる。三詠さんはそこに、少し違う感覚を持っている。

「語彙力や言語化力を無理に高めなくても、思ったことをそのまま書けばいい。私はそう感じています。言葉は言い尽くすものではない。ライティングの本を出しながら、テクニックに走るな、というのがメッセージかもしれません」

本書が目指すのは、「うまく書く」ことではなく、「何を書くか」に気づくことだ。自分の経験から生まれた言葉は誰とも違う。「自分だけのものだし、AIにはそれは絶対に書けない」と三詠さんは言い切る。テクニックを覚える前に、自分が何を言いたいのかを知ること。その順番が逆になっているから、多くの人が発信に詰まってしまうのだと。

「何を書いたらいいのか、私は誰なのか、何を言いたいのか。そこに気づければ、それを書けばいいだけなので、むしろテクニックはいらないのです」

もちろん、本書の後半には三詠さんオリジナルの文章を書くためのメソッドも収録されている。前半で自分を掘り下げ、「あ、私こういうことを言いたいんだ」と気づいた後に、その型を使うことで「スルスル書けるようになる」という構成だ。テクニックを否定しているのではなく、テクニックが活きる土台を先に作ることを大切にしている。

書けば書くほど「まだ表層だ」と気づく

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執筆中に一番苦しかったことを聞くと、三詠さんは「ありすぎて」と笑った。

「書けば書くほど、まだ表層だと気づく。10行書いた内容にも、まだ上に積めるはずがある。1行に濃縮すれば、もっと深いところがあるはずだ、という感覚の繰り返しでした」

夜に書いて、朝起きると「あ、そうだ」と気づいて書き換える。それが永遠に終わらない感覚だったという。初めての著書ということもあり、メルマガとは違う「構え」があった。しかしその気負いが、「本当に本当に深層にあることを伝えたい」という気持ちに変換されていった。

「何度も書き直して、今の形にたどり着けた、という実感はあります」

本書で説かれている「本音を深掘りする」プロセスを、著者自身が執筆を通じてそのまま体験していた。その事実が、本の言葉に独特の重みを与えているのかもしれない。

出版への道:偶然が重なった半年

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「いつからかわからないぐらいずっとあった」という出版への思いは、起業して10年の間、ずっと三詠さんの中にあった。周りに本を出す人が増えるたびに、その気持ちは強くなっていった。

動き出せたきっかけは、「本を出したらいいよっていう出来事が立て続けに起こった」ことだったと振り返る。数十万円の出版塾に入ったものの一度も活用できなかった過去もある。しかし企画書を出す半年ほど前から、「本当にただみたいな値段で学べる出版塾が突然現れて」参加したり、身近な知人が初めての著書でスマッシュヒットを出したりと、背中を押す出来事が続いた。

「事例が目の前に現れるのは、やりなさいと言われているのかもしれない。」

企画書を書いて送ったのは5月。何も音沙汰がなく「ダメだったんだな」と思っていたら、12月に突然「プレゼンできますよ」という連絡が届いた。別の出版オーディションでは予選も通らなかった。それでも、一度決まってからは「すごい早かった」という。

この出版までの道のりは、心の起業学でもリアルタイムで語られていた。リスナーは三詠さんの苦労と喜びを、ほぼ同時進行で聞いていたのだ。

企画書と完成形がほぼ同じだった理由

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「企画書と本がほとんど同じです。タイトルも構成も、最初の企画書のまま。その通りになるとは思いませんでした」

一般的に、編集者との話し合いで企画書の内容は大きく変わることも多い。三詠さん自身もそのつもりだったが、声をかけてくれた出版社は「著者の企画をそのまま活かす」雰囲気があったと言う。

ただし、構成は変わらなくても、中身は別の話だった。「企画書に書いた章立てや見出しは、その時点では自分の中で確かにイメージできていたものです。ですが、中身まではまだ詰めきれていませんでした」。実際に書き始めると「どうしよう」という場面が何度もあり、見出しは大幅に変えた。

「書いてみて、やっとこの本の正体が見えてきた、という感じです」

企画書は著者の「本音」を凝縮したものであり、執筆はその本音を掘り起こしていく作業だった。そう考えると、この本の構造自体が、本書のメッセージと重なって見えてくる。

PODCASTが引き出した「言うつもりじゃなかったこと」

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PODCAST「心の起業学」を始めたのは、三詠さんにとって「自分の中でいろいろ変化があって、何か自分が今まで出してきたものと違うものを伝えていきたい」という気持ちが大きくなっていた時期だった。それまでメルマガなど「書くこと」をメインにしてきた彼女が、「話すとかライブするとか、そういうことがいいな」と感じていたタイミングで、ナビゲーターのトーマス・J・トーマスとの出会いがあった。

PODCASTで話すことで、「今まで出してなかったものが出せるようになった」と三詠さんは言う。その感覚が、著書の内容にも繋がっているという。

「トーマスさんから思いがけない質問を受けて、言うつもりのなかったことを口にしてしまうことがある。自分では『言っちゃったな』と思うのですが、聴いている方にはそれが面白いのだと思います」

台本に縛られず、テーマに沿って「掛け合って喋ってる状態」が、リスナーに届く「本音」の核になる。Lifebloom.funのPODCAST編集でも、声の温度感をそのまま残すことを大切にしているが、三詠さんの言葉はその感覚と自然に重なる。しっかり作り込まれたコンテンツの良さはある、と三詠さんは認めながらも、「そればっかりだと聞いてるほうも疲れる」とも言う。「気楽に聴けて、気分がよくなったり、ヒントになったりするものを、リスナーは求めているのだと思います」。その言葉は、PODCASTというメディアの本質を静かに言い当てている。

声が消した「意外とラフなんですね」

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「話すと、やはり素が出てしまいますよね」

PODCASTを始める前、メルマガ読者の方から「みえさんって、意外とラフなんですね」と言われることが多かったと三詠さんは振り返る。良い意味でのギャップではあるが、文字だけでは伝わりきらない部分があったということでもある。

PODCASTを始めてから、その言葉を言われることがなくなった。声を通してキャラクターや雰囲気をすでに知っているリスナーが、面談に来るようになったからだ。

「ギャップがなくなった。お互いの期待値のずれが少ないので、自分も話しやすい。それでもいい、という話し方を聞いて共感してくれる方が来る。それはとてもありがたいことだと思います」

PODCASTは、配信者が自分らしくいられる場所であると同時に、リスナーとの間に「ギャップのない信頼」を育てる場でもある。三詠さんの経験は、その効果を具体的に示している。

サブカルコーナーが伝えた「この人のルーツ」

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「心の起業学」には、毎回最後に数分間の「サブカルコーナー」があった。三詠さんが好きな映画や本、アニメを紹介するコーナーで、ビジネスの話とは少し外れた「横顔」が見えた。

「好きなことを自由に話せる場なので、とても楽しいです」

ナビゲーターのトーマス・J・トーマスも、このコーナーで紹介された映画を実際に観たり、本を読んだりしたという。紹介されるコンテンツにはビジネスにも繋がる視点が含まれることも多く、「みえさんがどんなものでできているかがわかるだけで、少し近づける感じがした」と語る。

三詠さんは「立体的に、その人のことが見えてきます」と言う。15分という尺の中の最後のワンコーナー、数分の枠だからこそ、「自然に『こういう面もあるよ』という部分を入れやすい」。AIがどんな情報でも生成できる時代に、「自分らしさやキャラクター、生き様といったものを、出していかなければいけない」という本書のメッセージは、このコーナーの存在そのものとも重なっている。

自己理解が「なんであなたが?」を消す

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「サービスや講座、商品と、自分の人柄や人生は一致していなければいけない」

三詠さんは、普段まったく子育ての話をしない人が突然「子育て講座やります」と言っても「え?」となる、という例を挙げる。極端な話だが、それに近いことを多くの人がやってしまっていると指摘する。講座やサービスに込めたメッセージや自身の経験を、なぜか表に出してこない。だから「なんであなたが?」となったり、情報の海に埋もれてしまったりする。

だからこそ、自己理解が大切になる。過去の経験を深く掘り下げ、今の視点から意味を捉え直すこと。ネガティブな記憶の方が浮かびやすい人間の性質に触れながら、三詠さんはこう言う。

「たとえば、家族との関係で悲しいことがあった記憶なら、まずは、その時の自分に寄り添うことが大切。その上で、新しい視点からできごとの意味を捉え直していくと、本当の意味で癒やされていく」

自分の人生を肯定できるようになると、発信する際の言葉もスッキリしたものになる。「人格者になれ、という話ではなく、自分をちゃんと受け止められている、『自分ってこうなんだ』と言えることです」。自分を愛し、明確な意図を持って言葉を届けられるようになる。それが、『SNSフォロワー1000人以下でも濃いファンができる発信術 本音ライティング』が目指す、発信の根っこにある変化だ。

本音は一つじゃない、矛盾があっていい

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「本音」という言葉は、ときに「究極の一つの答え」を探させてしまう。しかし三詠さんは、本音はいくつもあっていいし、矛盾していてもいいと言う。

「楽したいのも本音だし、お金が欲しい、というのも本音です。そこを自分で認められれば、もういいのかなと思います」

「稼がなければ」「自分を高めなければ」という思いに蓋をして、表面的な目標だけを掲げている人は多い。そもそも「願いを叶えたい」というその願い自体が、本当に自分のものかどうかも問い直す必要があると三詠さんは言う。年収や物質的な豊かさへの憧れが、実は社会的な期待に乗っかったものだったりする。

「本当の自分の思っていることをちゃんと自分が知っておいて、それに従って生きることが大事だと思っています。それの入り口になるような本だといいな、と」

本書を「ライティングの本」として手に取った人が、気づけば自分の声に耳を澄ませている。そういう読後感を、三詠さんは静かに目指している。

「リラックスして自分を伝えられる場所」

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PODCASTとはどういう存在か、と最後に聞いた。三詠さんは少し考えてから答えた。

「一言で言えば、リラックスして自分を伝えられる場所です」

YouTubeやInstagramのライブでは、顔を映さなくても映像が伴う。表情、身振り手振り、服装、背景。意識しなければならないことが増える。声だけのPODCASTは、そうした要素をすべて取り払ってくれる。

そして三詠さんは、PODCASTが特に向いている人として、「コンテンツ力が弱いかもしれない」と感じている人を挙げた。専門性やオリジナルメソッドがまだ明確でない、キャラクターが立っているわけでもない、と自己評価が低い人。

「しゃべっているうちに言葉が出てくる。ナビゲーターがいればテーマに沿った対話になるので、話しているうちに『私はこんなことを思っていたんだ』と気づける」

リスナーからの質問に答えるうちに、それが自分のメソッドになっていく。一人でコンテンツを考えていると「堅苦しいものになってしまう」が、人と話すことで自然に引き出される。その感覚は、三詠さん自身がPODCASTを通じて経験してきたことでもある。もちろん、コンテンツが豊富でいっぱい話したいという人は「すぐやったらいいと思う」とも言う。ただ、そこにまだ行けていないと感じている人にこそ、話しながら自分を発見していくプロセスが向いているのだと。


松三詠さんが語った言葉の中で、繰り返し浮かび上がってきたのは「自分が自分の思っていることを分かってあげる」という視点だった。発信のテクニックでも、フォロワー数でもなく、まず自分の声に気づくこと。それができれば、書くことも話すことも、自然と変わっていく。

著書『SNSフォロワー1000人以下でも濃いファンができる発信術 本音ライティング』には、その気づきへの入り口が丁寧に用意されている。さらっと読めば1時間ほど、ワークに向き合えば何度でも使い込める一冊だ。三詠さんの「本音」が積み重なってきた場所。PODCAST「心の起業学」の音声は、この記事とあわせて、ぜひ聴いてみてほしい。

「声は、奪われた時間を取り戻すために。」ポッドキャストプロデューサー・トーマスが、不完全な言葉を編み続ける理由
「声の向こうにいる人のこと。」:トーマス・J・トーマス

写真家、そして映像制作の世界で、目に見える「成果物」を追い求めてきたトーマス。しかし、彼が今、最も情熱を注いでいるのは、目に見えず、消えては流れていく「声」というメディアです。
「人の寿命を奪うのではなく、人生に花を咲かせるために」。その言葉の裏側には、彼がこれまでのキャリアで感じてきた葛藤と、声というコミュニケーションが持つ、嘘のつけない温もりへの確信がありました。Lifebloom.funの代表として、100の番組、そしてその先の未来を見据える彼が、なぜ今「声の向こう側」にこだわり続けるのか。その静かな情熱の源泉に触れてみたいと思います。

映像制作で感じた「寿命を奪う」という感覚

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トーマスが「声」というメディアに比重を置くようになった背景には、以前手掛けていた映像制作の仕事での、ある種、切実な気づきがありました。
「映像の世界は、たった15分の完成品を作るために、40時間も50時間も、まるで時間が溶けていくように過ぎていきます」。制作側として膨大な時間を費やす一方で、彼はある問いに突き当たります。「自分たちが心血を注いで作ったこの動画を観ることで、視聴者の時間もまた、同じように『溶けて』しまっているのではないか」という懸念です。
幼い頃からテレビが大好きだった彼は、テレビの前であっという間に一日が過ぎてしまう体験を何度もしてきました。映像は強力なメディアであり、人の注意を強く惹きつけます。しかしそれは、見方を変えれば、人の貴重な時間、すなわち「寿命」をダイレクトに奪っているようにも感じられたのです。「生半可な気持ちで映像を量産することは、世の中にとって本当に良いことなのだろうか」。そんな違和感が、彼を「耳」のメディア、ポッドキャストへと向かわせるきっかけとなりました。

深い繋がりの原体験。「声」から始まった人生の転機

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映像に対する葛藤の一方で、トーマスには「声」によるコミュニケーションへの強い信頼がありました。その確信を裏付けるのは、彼自身の個人的な、しかし非常に深い人生の経験です。
「今の妻と付き合い始めた頃、私たちは何度も長電話をして、声だけでコミュニケーションを重ねてきました。顔が見えないからこそ、声のトーンや話し方の端々に宿るその人らしさを、じっくりと受け取ることができた。あの声でのやり取りが、結婚という人生の大きな決断に繋がったんです」。
声は、人の心の奥底にあるものを、ごまかしようのない形で伝えてしまう。そんな声の持つ親密さと深さを身をもって知っていたからこそ、彼はポッドキャストという場所で、誰かの大切な想いを形にすることを決めたのです。目で見える華やかさよりも、耳から届く確かな体温。それが、トーマスが「声」にこだわり続ける理由です。

なぜ「えー」「あのー」を削りすぎないのか

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トーマスの編集スタイルは、ある意味で「不親切」かもしれません。ポッドキャストの編集では、無駄な言葉(フィラー)を徹底的にカットして「完璧なトーク」に仕上げることが一般的ですが、彼はあえて「ゆらぎ」を残すことを選びます。
「完璧に削りすぎると、結局は機械が喋っているのと変わらなくなってしまう気がするんです」。彼が残したいのは、その人が言葉を紡ぎ出す際の「呼吸」です。次に何を言おうかと迷う数秒の沈黙や、少し言い淀む瞬間。そうした、いわゆる「情報のノイズ」とされる部分にこそ、その人の誠実さや迷いといった、血の通った人間らしさが宿っています。
「削りすぎない」という塩梅は、非常に曖昧で難しい作業です。しかし、すべてを削ぎ落とした「正解」よりも、少し不格好でも「そこに人がいる」ことが伝わる温度感。トーマスは編集という行為を通じて、配信者の「人格の輪郭」を丁寧に守っています。

配信者の孤独と、それを包み込む「肯定」の力

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ポッドキャストの配信を続けることは、時に孤独な作業です。マイクに向かって一生懸命に話しても、すぐにリスナーからの反応があるわけではありません。「これで合っているのか」「誰にも届いていないのではないか」という不安に、多くの配信者が直面します。
「特に、今回のトークは盛り上がらなかったな、失敗しちゃったな、と感じた時に、配信をやめようかなと考えてしまう方が多いんです」。そんな時、トーマスはプロデューサーとして、配信者の隣に静かに座ります。
「僕は、その方のすべてを肯定したい。盛り上がらなかったと感じるその時間の中にさえ、その方の理念や、心の奥底にある思いがにじみ出ているはずなんです」。自分では失敗だと思っている部分にこそ、実は聴き手の心を打つ「人間味」が眠っている。トーマスは「大丈夫ですよ、面白かったですよ」という言葉をかけ続け、配信者が自分の価値を再発見できるよう、同じ方向を見つめて伴走し続けます。

出し惜しみしない言葉が、リスナーの勇気になる

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トーマスが目指しているのは、単なるコンテンツの配信ではなく、ポッドキャストを通じた「知恵の循環」です。音声メディアは、一度話し始めると、なかなか自分を偽ることができません。長時間語り続ける中で、配信者は自分が持っているものを、期せずしてすべて出し切ってしまうことがあります。
「出し惜しみをしない、その人が持っているものすべてを曝け出した言葉。それを無料で聴けるのがポッドキャストの素晴らしさです」。リスナーは、その純度の高い言葉を聴き続けることで、自然とその人の知見を吸収していきます。
「知識は勇気を補完する」。トーマスが好んで使うこの言葉通り、知ることで、あるいは誰かの経験を耳にすることで、人は一歩踏み出す勇気を得ることができます。配信者の「出し惜しみしない言葉」が、見知らぬ誰かの心を動かし、閉ざされていた人生を少しずつ開き始める。そんな、音声だからこそ起こせる奇跡を、彼は信じています。

2026年末、100の「声」が街に溢れる未来を描く

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Lifebloom.funは、2026年中に100番組、そして2028年末までに300番組を世に出すという目標を掲げています。これは、単にビジネスを拡大したいという数字の遊びではありません。トーマスの中には、より切実で具体的な「社会への願い」があります。
「世の中には、一歩踏み出せずに悩んでいたり、自分に自信が持てなくて人生をつまらないと感じている方が意外に多い。そんな人たちの耳に、僕たちが関わった番組が届いた時、何かが起きると思うんです」。
300の番組があれば、そこには300通りの人生観があり、300通りの成功と失敗の話があります。たまたま聴いた一つのエピソードが、誰かの新しい習慣になり、行動を変えるきっかけになる。そんな小さな「化学反応」が街のあちこちで起きることを夢見て、彼は今日もマイクとヘッドホンに向き合っています。

人生に花を咲かせるのは、配信者ではなく「リスナー」

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「Lifebloom(人生に花を)」という言葉に込めた想いについて、トーマスは意外な事実を明かしてくれました。この言葉が向けられている第一の対象は、実はお客さまである配信者ではなく、その先にいる「リスナー」なのです。
「配信者が番組を続けていくことで、それを聴いたリスナーの人生に花が咲く。それがLifebloom.funの本当の願いです」。何気ない「ながら聴き」であっても、言葉は少しずつその人の中に積もっていきます。沈殿していった言葉たちが、ある時、新しい行動や習慣へと形を変える。
自分たちの仕事は、そのための「種」を蒔き、育てること。リスナーがその番組を聴き終えた時、明日が少しだけ楽しみになる。あるいは「自分もこのままでいいんだ」と自分自身を肯定できるようになる。そんな変化を、彼は「人生に花が咲く」と定義しています。

威圧感を与えない。予定調和を崩す空気作り

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良い言葉を引き出すために、トーマスが現場で最も腐心しているのは「空気感」です。収録という非日常的な空間では、誰しも緊張し、どこか「正解」を探してしまいがちです。彼はその緊張を、驚くほどさりげない方法で解いていきます。
「儀式のようなものはありませんが、威圧感を与えない姿勢や、柔らかい空気を纏うことは常に心がけています」。収録中にトラブルやミスが起きたとしても、彼はそれを「番組を面白くする生もの」として笑い飛ばします。
予定調和なトークよりも、ハプニングに笑う瞬間や、ふとした本音。配信者が「この人の前なら、何を話しても大丈夫だ」と100%の信頼を寄せられる状態を作ること。プロデューサーとしての彼の真骨頂は、技術的な指示ではなく、その「安心の場」をデザインすることにあります。

違和感を拾い上げ、自然な流れを「調律」する

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一人でヘッドホンをし、音声に向き合う編集の時間。トーマスは何を探しているのでしょうか。意外なことに、彼は一言一句を精査するのではなく、あえて「ながら聴き」の体制で音声に向き合います。
「リスナーと同じように聞き流す中で、耳が『あれ?』と違和感を覚える瞬間を逃さないようにしています。言い淀みや、本心ではないことを言った時のわずかな声の揺れ。そうした耳に引っかかる部分をうまく掬い取り、自然に流れるように整えていくんです」。
彼の編集は、音の調律(チューニング)に似ています。不自然な突っ掛かりを滑らかにし、一方でその人らしい「味」は残す。聴き手がストレスなく、しかし配信者の存在を確かに感じられるように音を編んでいく。その職人的なこだわりが、Lifebloom.funの番組の聞き心地の良さを支えています。

自問自答の日々。配信者の想いとリスナーの距離

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「これでいいのか」と、トーマスが自問自答することもあります。特に、配信者が「こうしたい」と望むやり方と、実際のリスナーの反応が乖離してしまった時、彼はプロデューサーとしての壁にぶつかります。
「配信者が表現したいことを守りながら、いかに再生される形、届く形に近づけていくか。これは永遠のテーマです」。彼は決して配信者の意向を否定しません。しかし、ただ言いなりになるのでもなく、密なコミュニケーションを通じて、一歩引いた視点からの提案をひたすら続けます。
「表現」と「共感」の狭間で、いかにして最適なバランスを見つけ出すか。その悩みこそが、彼が配信者の番組を「自分のこと」として捉えている証でもあります。

説明しすぎない。「リスナーの力」を信じる勇気

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今の世の中、多くのメディアが「分かりやすさ」を過剰に追求しています。しかし、トーマスは「説明しすぎないこと」の価値を信じています。
「人にはそれぞれのアンテナがあります。同じ話を聴いても、隣の人とは全く違うことを感じているはず。だから、説明し尽くさなくても、届く人には必ず届くんです」。リスナーは何かをしながら聴いているかもしれない。一言一句を完璧に理解しているわけではないかもしれない。それでも、配信者の情熱やメッセージは、その人の心の深いところに蓄積されていく。
「リスナーを信じること」は、配信者にとって勇気のいることです。しかしトーマスは、その「届く力」を確信しているからこそ、余計な飾りを剥ぎ取り、純粋な言葉だけを世に送り出そうとしています。

完璧じゃなくていい。肩の力が抜ける世の中へ

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トーマスが描く未来の景色は、とても穏やかです。Lifebloom.funが手掛けた番組が街中に溢れたとき、世界はどう変わっているのでしょうか。
「『これでいいんだ』とか『完璧じゃなくていいんだ』と、みんなが肩の力を抜いて生きていける世の中になっていたらいいなと思います。いろんな人がいて、いろんな考えがあって、できないことは誰かにお願いしていい。自分にもきっと、誰かの役に立てる場所があるんだと、自分にOKを出せる人が増えてほしい」。
ポッドキャストを通じて、多様な「人間」の姿が声で届くこと。それは、画一的な正解から人々を解放し、自分自身でいることへの自信を取り戻す旅でもあります。彼が編み続けるのは、単なる音声コンテンツではなく、誰もが自分らしく呼吸できる、優しい世界の断片なのです。


声の向こう側にある「あなた」を肯定し、その歩みを支える。トーマスの挑戦は、まだ始まったばかりです。